実家の売却は相続前と相続後どちらが得?

親(被相続人)が亡くなったあと実家が空き家になってしまう場合、相続した実家の売却を考えると思います。

実は、実家の売却時にかかる譲渡所得税は、実家の相続が発生する前に売却する場合と、相続後に売却する場合で納める金額が変わります

なぜなら実家を売却するタイミングで、譲渡所得税に適用される特例が違うからです。

また、相続を受ける人(相続人)が持ち家か賃貸かによって、受けられる相続税の特例が異なるため、この二つの要因が複雑に絡み合い実家の売却のベストなタイミングを判断しづらくさせています

そこでこの記事では、実家の相続税と売却したときの譲渡所得税に関わる控除と特例について解説し、相続人が持ち家か賃貸かの違いで、実家の売却のタイミングが相続前と相続後でどちらが得なのかシミュレーションを行います。

目次

実家の相続税と売却時の譲渡所得税の控除と特例

実家の相続税と譲渡所得税の控除と特例には以下のものがあります。

相続で受けられる控除と特例

  • ①相続税の基礎控除
  • ②小規模宅地等の特例

実家の売却で受けられる控除と特例

  • ③マイホームを売ったときの特例(居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例)
  • ④ マイホームを売った時の軽減税率の特例
  • ⑤空き家特例
  • ⑥財産を取得したの場合の取得費の特例

ひとつずつ解説します。 

①相続税の基礎控除

相続税の基礎控除は相続人全てに適用されます。

基礎控除額は、

3000万円+600万×法定相続人数

です。

 相続税は基礎控除を超えた財産に課税されます。

相続税は基礎控除を引いた相続税の対象となる金額に税率をかけ、さらに税額控除して計算します。

基礎控除後の相続税対象金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

国税庁HP参照

②小規宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、相続の対象となる330㎡までの土地の評価額が80%減額される特例です。

適用条件は、

  • 被相続人が居住していた土地であること
  • 相続人が配偶者か同居している親族、または3年以上賃貸で暮らしている親族(家なき子特例)

の両方を満たす必要があります。

また、相続人が持ち家の場合は、この特例は適用されません。

③マイホームを売ったときの特例(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)

自分の住んでいる住宅を売却した場合、譲渡所得から3,000万円の特別控除が受けられる制度です。

 ④マイホームを売ったときの軽減税率の特例

住宅の売却で得られる譲渡所得には、所有が5年以下の短期譲渡所得と5年以上の長期譲渡所得があり、それぞれ譲渡所得にかかる税率が違います。

短期譲渡所得にかかる税率は39.63%、長期譲渡所得にかかる税率は20.315%です。

ただし、所有期間が10年以上で自分が居住する住宅を売却した場合は、マイホームを売ったときの軽減税率の特例の適用が受けられ、6000万円までの譲渡所得にかかる税率が14.21%に下がります。

⑤空き家特例

空き家特例は被相続人が亡くなるまで1人で住んでいた空き家を相続し、空き家と敷地を売却したときの譲渡所得から3,000万円控除することができる制度です。

空き家特例の適用を受けるには以下の条件をすべて満たしている必要があります。

  • 2023年の12月31日までに住宅敷地を売却し譲渡所得を得ること
  • 区分所有の建物でないこと
  • 昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
  • 被相続人が亡くなる前に1人で住んでいること
  • 売却金額が1億円以下であること
  • 空き家のまま売却する場合は耐震証明があること、耐震証明がない場合は空き家を解体して敷地のみ売却すること

空き家特例は、条件を満たしていればメリットの大きい制度です。

⑥財産を譲渡した場合の取得費の特例

取得費の特例は相続を受けた翌日から3年10カ月が経過するまでに、相続した住居を売却した場合、住居の相続税を取得費加算分として譲渡所得から控除される制度です。

取得費の特例と空き家特例は併用できません。

以上の実家の相続や売却で得た所得に適用される控除や税率の軽減は

  • 相続人が持ち家か賃貸か
  • 実家を相続前に売却するか相続後に売却するか

によって変わります。

実家の売却タイミング別税額シミュレーション

実家の売却は相続の前と後で、相続税と譲渡所得税の合計金額はどのくらい違うのでしょうか。

相続人が持ち家の場合と賃貸の場合のシミュレーションをします。

相続人が持ち家で相続前に実家を売却するケース

子は持ち家で実家から親を呼びよせ一緒に暮らすことにしたので、空き家になった築50年の実家を相続前に親に売却してもらいました

【条件】

  • 被相続人の配偶者はすでに亡くなっていて、相続人は子の1名
  • 実家の相続税評価額は8000万円
  • 親が生前に相続税評価額8000万円の実家を1億円で売却
  • 実家の取得費が不明なので、譲渡所得の計算に使う取得費は売却額の5%
  • 売却するための家の解体など売却にかかった譲渡費用は500万円
  • 実家を売却後に親が亡くなり子が遺産を相続

譲渡所得税

(収入額1億円−取得額500万円−譲渡費用500万円−マイホームを売却した時の特例3000万円)×マイホームを売却した場合の軽減税率の特例の税率14.21%

=852万6,000円

この場合の特例は、③マイホームを売ったときの特例(居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例)と④ マイホームを売った時の軽減税率の特例が適用されます。

収入額 1億円
取得額 −500万円
譲渡費用 −500万円
特別控除 −3,000万円
譲渡所得 6,000万円
税率 14.21%
譲渡所得税額 852万6,000円

相続税

(遺産8,733万2,000円−相続税の基礎控除3,600万円)×相続税率20%−税額控除200万円)

=826万6,000円

この場合は、①相続税の基礎控除の適用を受けます。

基礎控除された遺産の金額4,547万4,000円の税率は20%です。

さらに、200万円の税額控除を受けられます。

遺産の額 8,733万2,000円
相続税の基礎控除 −3,600万円
相続税対象額 4,547万4,000円
税率 20%
税額控除 −200万円
相続税額 826万6,000円

相続人が持ち家で相続前に実家を売却するケースでの譲渡所得税と相続税の合計は1,679万2,000円です。

相続人が持ち家で相続後に実家を売却するケース

 1人で実家に住んでいた親が亡くなり、子は空き家になった築50年の実家を売却しました。

【条件】

  • 被相続人の配偶者はすでに亡くなっていて、相続人は子の1名
  • 実家の相続税評価額は8,000万円
  • 相続後、相続税評価額8,000万円の実家を1億円で売却
  • 実家の取得費が不明なので、譲渡所得の計算に使う取得費は売却額の5%
  • 売却するための家の解体など売却にかかった譲渡費用は500万円

相続税

(実家8,000万円−相続税の基礎控除3,600万円)×相続税率20%−税額控除200万円

=680万円

この場合は①相続税の基礎控除の適用を受けます。

基礎控除された遺産の金額は4,400万円で税率は20%です。

さらに、200万円の税額控除が受けられます。

実家の相続税評価額 8,000万円
相続税の基礎控除 −3,600万円
相続税対象額 4,400万円
税率 20%
税額控除 −200万円
相続税額 680万円

譲渡所得税

(収入額1億円−取得額500万円−譲渡費用500万円)×長期譲渡所得の税率20.315 %

=1,828万4,000円

⑤の空き家特例と⑥の財産を譲渡した場合の取得費の特例を受けない場合で計算しています。

収入額 1億円
取得額 −500万円
譲渡費用 −500万円
譲渡所得 9,000万円
税率 20.315%
譲渡所得税額 1,828万4,000円

相続人が持ち家で、相続後に実家を売却するケースの相続税と譲渡所得税の合計は2,508万4,000円です。

相続人が持ち家で、親に相続前に実家を売却してもらった場合の相続税と譲渡所得税の合計額は1,562万1,000円、相続後に相続人が実家を売却した場合の相続税と譲渡所得税の合計は2,508万4,000円でその差は946万3,000円もあります

親の同意が得られれば、生前に空き家となる実家を売却してもらうと譲渡所得税が大幅に軽減されます。


仮に、このケースで実家の売却に⑤空き家特例を使った場合は、

譲渡所得税

(収入額1億円−取得額500万円−譲渡費用500万円−空き家特例3,000万円)×長期譲渡所得の税率20.315 %

=1,218万9,000円

相続税と譲渡所得税の合計額は1,898万9,000円です。

また、相続した実家を3年10カ月以内に売却し⑥財産を取得したの場合の取得費の特例を適用した場合は

譲渡所得税

(収入額1億円−取得額500万円−譲渡費500万円−財産を取得したの場合の取得費の特例680万円)×長期譲渡所得の税率20.315 %

=1,690万2,000円

相続税と譲渡所得税の合計額は2,370万2,000円です。

なお、財産を取得した場合の取得費の特例による取得費加算の計算式は

取得加算費=相続税×実家の相続税評価額÷相続した財産の合計

で表されます。

相続人が持ち家の実家の売却のケース 相続税・譲渡所得税合計
相続前に売却 1,679万2,000円
相続後に売却 2,508万4,000円
相続後に売却空き家特例を適用 1,898万9,000円
相続後に売却取得費の特例を適用 2,370万2,000円

相続人が持ち家なら、親が相続前に実家を売却する場合が最も相続税と所得税の合計を少なくできます

相続人が賃貸で相続前に実家を売却するケース

相続人が賃貸で相続前に実家を売却するケースの譲渡所得税と相続税は、同条件なら相続人が持ち家で相続前に実家を売却する場合と同じ合計1,679万2,000円です。

相続人が賃貸で相続後に実家を売却するケース

相続人が賃貸に住んでいて相続後に実家を売却しました。

条件を相続人が持ち家に住んでいて相続後に実家を売却したケースと同じとすると

相続税

実家8,000万円×小規模宅地等の特例(1−0.8)−相続税の基礎控除3,600万円

=0円

この場合、賃貸に住んでいる相続人は②小規模宅地等の特例が適用され、①相続税の基礎控除も併用されます。

実家の相続税評価額 8,000万円
小規模宅地等の特例 −80%
相続税の基礎控除 −3,600万円
相続税対象額 0円

相続後実家を1億円で売却しました。

譲渡所得税

(収入額1億円−取得額500万円−譲渡費用500万円)×長期譲渡所得の税率20.315 %

=1,828万4,000円

相続税は0円なので、譲渡所得税との合計は1,828万4,000円です。

仮に、このケースで実家の売却に⑤空き家特例を使った場合は、

譲渡所得税

収入額1億円−取得額500万円−譲渡費用500万円−空き家特例3,000万円)×長期譲渡所得の税率20.315 %

=1,218万9,000円

収入額 1億円
取得額 −500万円
譲渡費用 −500万円
譲渡所得 9000万円
税率 20.315%
譲渡所得税額 1,828万4,000円

相続税は0円なので相続税と譲渡所得税の合計額は1,218万9,000円です。

また、⑥財産を取得した場合の取得費の特例は相続税が0円なので適用されません。

相続人が賃貸の実家の売却のケース 相続税・譲渡所得税合計
相続前に売却 1,679万2,000円
相続後に売却 1,828万4,000円
相続後に売却空き家特例を適用 1,218万9,000円
相続後に売却取得費の特例を適用 1,828万4,000円

相続人が賃貸に住んでいて②小規模宅地等の特例を受け⑤空き家特例を同時に受けられるケースが、相続税と譲渡所得税の合計を最も少なくできます

まとめ実家の売却は相続前と相続後のどちらが得?

今回のシミュレーションでは、空き家になる実家を売却するなら、相続後に売却するよりも相続前に売却する方が多くの場合譲渡所得税を抑えることができました。

また、相続人が賃貸に暮らしていて小規模宅地等の特例を使って相続し、空き家特例の適用を受け実家を売却する方法が、最も相続税と譲渡所得税の合計を少なくできる方法でした。

しかし、実際の相続では財産の金額や法定相続人の数によって、シミュレーションと異なる場合があります。

個別の相続の案件については、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

この記事があなたの不動産の相続で、失敗しないための準備にお役立ていただけたらとてもうれしく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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