不動産売買の手付金が現金である理由とは?契約における手付金の注意点を解説

不動産売買において、手付金は重要な役割を果たします。手付金の授受は、買主と売主双方が契約に対して強い意思を持っていることを示す証です。また、手付金には、契約の簡単な解除を防ぐ効力があります。もし契約をキャンセルする場合、買主は手付金を放棄し、売主は受け取った手付金の2倍を返還しなければいけせん。

不動産売買の手付金は、物件価格の5〜10%と高額です。にもかかわらず、手付金の交付はほとんどが現金で行われており、業界の慣習です。

この記事では、不動産売買の手付金が現金で支払われる理由を解説します。また、手付金の支払い時の注意点についてもお伝えします。

目次

不動産の手付金

不動産の売買契約では、買主が売主に手付金を支払います。この手付金には、売買契約成立の証拠としての意味があり、法的効果が発生します。手付金の授受が完了すると、買主が契約を解除する際は手付金を放棄しなければなりません。一方、売主がキャンセルする場合は、受け取った手付金の倍額を買主に支払う必要があります。つまり、手付金は買主と売主双方が簡単に契約を解除できないようにするためのはたらきを持っているのです。

手付金は、売買契約成立と同時に買主から売主へ現金で支払われるのが一般的です。その理由は、売買契約が金融機関の休日である土日に行われるケースが多いからです。手付金を契約日までに売主の口座へ入金するには、事前に振り込まなければなりません。しかし、振り込み後に売主が行方不明になってしまうと、手付金が返金されないリスクがあります。このようなトラブルを防ぐために、手付金は現金で売買契約当日に支払われるのです。

手付金の種類と相場

不動産の売買には一連の流れがあります。

不動産売買の締結から決済までの流れは、以下の通りです。

  1. 売買契約の締結
  2. 手付金の支払い
  3. 買主のローン本審査
  4. 買主のローン本審査の承認がおりる
  5. 決済買主から売主へ代金の支払い
  6. 売主から買主へ鍵の受け渡し
  7. 登記手続き

手付金の授受は売買契約時に行われます。手付金の相場は、物件の売却代金の5〜10%で、金額は売主と買主の話し合いで決定するのが通例です。売主が不動産会社の場合は手付金の額に上限があり、宅地建物取引業法第39条1項で売却金額の20%までと定められています。

不動産売買の手付には、交付目的によって3種類あります。

  • 証約手付
  • 違約手付
  • 解約手付

証約手付

証約手付とは、売買契約の成立を証明するために交付した手付金です。売買契約が締結するまでには、さまざまな交渉段階があり、どの時点で契約が成立したのかわかりにくいケースがあります。そのため、契約の成立を明確にするために交付するのが証約手付です。

違約手付

違約手付とは買主が代金を約束通り支払えないなどの債務不履行に陥ったときに、没収される趣旨で交付した手付金です。また、売主が契約通り物件の引き渡しができなかったときも、債務不履行として買主に手付金を返還するとともに、手付金の同額を違約金として支払わなければいけません。

解約手付

解約手付金の授受が行われていれば、契約成立後であっても買主は手付金の放棄、売主は手付金の倍額の支払いで、一方的な契約解除を可能にします。不動産の売買契約で交付される手付金は解約手付です。

手付金の注意点

不動産売買で授受される手付金は高額であるため、買主はトラブルが発生しないように手付金の交付は慎重に行わなければいけません。

買主が手付金を支払う際の注意点は、以下の通りです。

  • 手付金は契約当日に現金で支払う
  • 売買契約時にローン条項を締結する
  • 手付金は借金で用意しない 

手付金は契約日に現金で支払う

手付金は、契約当日に支払うのが最も安全です。契約と同時に手付金を支払うことで、持ち逃げのリスクを防ぐことができます。

また、売主と買主の日程が合わず、同席できない場合は、不動産会社が双方に出向いて契約書面を作成する持ち回り契約を行います。この際、買主は手付金を不動産会社に預ける必要がありますが、必ず預かり証を受け取ってください。そして後日、売主から領収書を発行してもらい、預かり証と引き換えなければなりません。

契約時にローン条項を締結する

物件購入の際、多くの人は金融機関から資金を借り入れます。金融機関によるローンの本審査は売買契約締結後に行われるため、審査に通らなかった場合に備えて、ローン条項を契約に加えておくことをおすすめします。ローン条項とは、本審査に通らず物件の購入ができなかった際、手付金の没収なしに売買契約を解除できる特約です。

手付金は借金で用意できない

手付金をカードローンなどの借金で用意すると、金融機関の本審査でマイナスの影響を及ぼすかもしれません。手付金の用意が難しい場合は、売主と交渉し、減額を依頼するのが一つの方法です。また、親族に相談して、身内からお金を借りるのも良い選択肢でしょう。

手付金が返金されるケース

手付金は、売買契約が成立したことを示す証拠です。

そのため、決済が完了すると、本来は手付金を買主に返金しなければなりません。しかし実際には、買主への返還手続きを省略し、そのまま物件の購入代金の一部に充当するのが一般的です。

一方、買主が代金を支払えず、契約内容を履行できない場合、手付金は売主に没収されます。売買契約の締結により、買主には契約内容の実行義務が生じ、それが果たせないときはペナルティが発生します。

手付金が戻るケース

買主が売買契約時に支払った手付金が戻ってくるケースには、以下のものがあります。

  • 売主の都合で契約解除になった
  • 売主の契約違反があった
  • 危険負担により契約を解除した
  • 売主が倒産した

売主の都合で契約が解除になった

売主の都合で契約解除になった場合は、手付金の倍額が買主に支払われます。ただし、買主がすでに契約の履行に着手しているときは、売主側は一方的な契約解除ができません。

(手付)

第五百五十七条 

買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

参照:e-Gov法令検索 民法

買主が履行に着手している具体的なケースは、以下の内容が当てはまります。

  • 中間金を支払っている
  • 残金を支払っている

法律上の契約の履行の着手には曖昧な部分が多く、裁判に発展するケースもあります。

売主に契約違反があった

売主が契約に違反する場合、購入代金を支払ったにもかかわらず物件を引き渡さないなどのケースがあります。このような状況で、買主は相当な期間を定めて債務の履行を催促しても売主が応じない場合、支払った手付金などの返還と違約金の支払いを請求する権利があります。違約金の額は、売買契約時に取り決めておくのが一般的です。

危険負担で契約を解除した

不動産売買の危険負担とは、火災や地震などの買主と売主の双方に責任のない被害で、物件の引き渡しができなくなった場合、買主は代金の支払いを拒めるというものです。

(債務者の危険負担等)

第五百三十六条

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

参照:e-Gov法令検索 民法

買主が危険負担を理由に契約を解除しても、手付金は戻ってきます。

売主の会社が倒産した

売買契約締結後、不動産会社が倒産して物件の引き渡しができなくなったときは、手付金の保全措置が受けられる場合があります。

手付金の保全措置が適用される基準には、以下の内容があります。

  • 売主が不動産会社で買主が個人である
  • 工事完了前の場合は手付金・中間金の合計が売買価格の5%以上または1,000万円以上 
  • 工事完了後の場合は手付金・中間金の合計が売買価格の10%以上または1,000万円以上

手付金の額が基準以下だと、保全措置は受けられません。

手付金が戻らないケース

売買契約時に支払った手付金は、買主側の都合で解約したときは戻ってきません。また、売主が契約の履行に着手していると、買主が手付金を放棄しても解約ができないケースもあります。

以下に挙げるのは、手付金が戻ってこないケースと手付金を放棄しても解約できないケースです。

  • 買主の自己都合で契約解除を申し出ると手付金は戻ってこない
  • 売主が契約の履行に着手すると手付金を放棄しても契約解除ができない
  • 手付解除期日を過ぎると解約できない

買主の都合で契約解除すると手付金は戻ってこない

買主が自己都合で契約解除を申し出たときは、手付金は戻ってきません。この場合、手付金は売主に没収されてしまいます。

売主が契約の履行に着手すると契約解除ができない

買主が手付金を放棄して契約解除を申し出ても、売主が契約の履行に着手していると解約できないケースがあります。

売主が契約の履行に着手している具体的例は、以下の通りです。

  • 買主の希望で土地の分筆登記を済ませた
  • 買主の希望でリフォームの材料を発注・工事に着手
  • 物件の一部を引き渡し済み
  • 買主の事情で引き渡し前に所有権移転登記を済ませた
  • 物件の引き渡しと所有権移転登記を済ませた

手付解除期日を過ぎると解約できない

売買契約時に手付金解除の期日を設定しているときは、期間を過ぎてしまうと手付金の放棄を申し出てもキャンセルできません。

手付金以外の諸経費

不動産の購入には、物件費用以外にもさまざまな経費がかかります。不動産の購入にかかる諸経費は、物件価格のおおむね15%です。不動産投資では、物件の購入にかかった費用も経費計上できるので節税が期待できます。

不動産を購入するための諸費用は、以下の通りです。

  • 登記費用
  • ローン事務手数料
  • ローン保証料
  • 固定資産税・都市計画税
  • 印紙税
  • 火災保険料
  • 修繕積立一時金

登記費用

登記は購入した不動産が自分のものであることを、公的に証明するために行います。不動産購入時の登記は、以下の3種類です。

登記の種類内容
所有権保存登記家を新築したときに所有者が誰なのかを公にするための登記
所有権移転登記中古物件を購入した際に、所有者の変更を登記
抵当権設定登記ローンを組んで購入した不動産は、金融機関を抵当権者、借り入れした人を抵当権設定者として登記します

不動産を購入した人は、登記するために登録免許税を納めます。

税額は固定資産税評価額に税率をかけて計算します。

登録免許税=固定資産税評価額×各種利率

また、登記を司法書士に依頼したときは費用が発生します。

司法書士の報酬の相場は、以下の通りです。

登記の種類司法書士への報酬の相場
所有権保存登記1〜5万円
所有権移転登記3〜10万円
抵当権設定登記2〜5万円

不動産投資では、登記に必要な登録免許税と司法書士への報酬は経費計上が可能です。

固定資産税・都市計画税

固定資産税と都市計画税は不動産の所有に対して、毎年かかる税金です。

税金の種類税額の計算式
固定資産税固定資産税評価額×1.4%
都市計画税固定資産税評価額×0.3%

固定資産税は、使い道が定められていない普通税に区分されています。固定資産税の使途は徴収した市町村により決定され、道路や公園の整備、介護などの福祉サービスに利用されています。

都市計画税は法律で使途が決められている目的税です。都市計画税は道路や水道などの整備が目的の都市計画事業と、市街地の区画整理を推進する土地区画整理事業に使用が限定されています。

固定資産税と都市計画税は不動産投資の経費として認められています。

ローン事務手数料

ローン事務手数料とは、金融機関から借り入れする際に発生する費用です。ローン事務手数料には定率型と定額型があります。定率型のローン事務手数料は金融機関によってさまざまですが、借入額の1〜3%を手数料として設定しているケースが多いです。また、定額型の事務手数料は、3万円が相場です。

ローン保証料

ローン保証料とは融資の返済ができなくなったときに、連帯保証人の代わりに金融機関に返済してくれる保証会社へ支払う費用です。不動産投資ローンを組む際は、ローンの保証会社と契約するのが一般的で、支払う保証料は借主の信用や返済期間によって変動します。ローン保証料の支払い方法は、一括払いと毎月のローン返済額に上乗せして支払う分割払いがあります。

印紙税

印紙税は不動産の購入の際、契約書や領収書などの課税書類に課せられる税金です。

不動産の購入で印紙税の課税対象となる書類には、以下のものがあります。

  • 不動産売買契約書
  • 建設工事の請負に関する契約書
  • 金銭消費貸借契約書
  • 抵当権設定契約書
  • 仲介契約書

印紙税の税額は、課税書類に記載された金額によって異なります。

印紙税額(本則税率)は、以下の通りです。

契約書に記載された金額不動産売買契約書建築工事請負契約書
1万円未満非課税非課税
10万円以下200円200円
50万円以下400円200円
100万円以下1,000円200円
500万円以下2,000円400〜2,000円※1
1,000万円以下1万円1万円
5,000万円以下2万円2万円
1億円以下6万円6万円
5億円以下10万円10万円
10億円以下20万円20万円
50億円以下40万円40万円
50億円超60万円60万円
記載金額のないもの200円200円
※1 200万円以下は400円、300万円以下は1,000円、500万円以下は2,000円
参照:国税庁No.7140印紙税額の一覧表

投資用物件を購入する際にかかった印紙税は、経費計上が可能です。

火災保険料

火災保険の加入は、災害のリスクを軽減する効果があります。火災保険は火災だけでなく、自然災害も補償します。

火災保険が補償する被害原因は、以下の通りです。

  • 火災・爆発・爆裂
  • 風災・雹(ひょう)災・雪災
  • 水災
  • 不測かつ突発的な事故による破損・汚損

火災保険には、所有する建物の不備により他人を死傷させてしまった場合などに発生する賠償金を補償する建物管理外傷責任補償特約もあります。

ただし、火災保険は地震による被害を補償しないため、地震保険への加入もあわせておすすめします。

修繕積立一時金

修繕積立一時金とは、所有するマンションの毎月の修繕積立金に加え、大規模修繕などの際に不足分を補うために徴収される修繕費です。

マンションには、修繕積立一時金以外にも、老朽化した物件のリフォーム代や設備の交換代など、物件のメンテナンスにさまざまな費用がかかります。賃貸経営では、修繕積立金や修繕積立一時金、メンテナンス費用が大きな割合を占めるため、経費計上を適切に行えば節税が可能です。

まとめ

不動産売買における手付金は、契約の簡単な解除を防ぐための重要な役割を果たしています。買主から売主に交付された手付金には法的な意味が発生し、売買契約を解除する際、買主は手付金を放棄しなければならず、売主は手付金の倍額を買主に支払う必要があります。不動産の売買には多額の資金が動くため、手付金も相当な金額をやり取りします。そのため、契約締結と手付金の支払いは慎重に行わなければなりません。

また、手付金をだまし取るなどの詐欺をはたらく悪徳業者も存在するため、信頼できる不動産会社に相談しながら契約を進めるのが賢明です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次